『ハトを知らない人々』

ハトを知らない人々と、ハトのちびと、旅人との出会いと旅立ちの物語です。

「必ず飛べる!」

ハトは旅人の肩に乗って、飛ぶ練習をしていました。

「さあ。ここから飛んでみよう。大丈夫、自分を信じて手を広げてみて。翼があるから君は必ず飛べる。やってみよう」

「こ、こわい。高いです」

「だんだんと慣れてくるから、少しずつやってみよう。勇気を出して!」

 意を決してハトがジャンプしたけれども、手があちらこちらにゆれて地面に落ちてしまいました。

「やっぱり無理なんです・・・・」

 

 

f:id:mikor300koeru:20140505080230j:plain

 

    

「手の動かし方に問題があるから、上下に翼を動かす練習をしてみよう」

「できますか・・」

「必ずできる!できるまでやろう!」

 ハトは旅人の迫力に圧倒され、不安になりながらも言われた通りに手を上下に動かしてみました。

「そうそう。慣れてきたね。そしたらもう一度肩にのってみよう」

「またのるんですか・・」

「今の要領で手を動かしてみて。きっとうまくいく」

 ハトはもう一度意を決して肩から飛び降りましたが、怖くて手が固まってまた地面にすてんと落ちました。

「手が動いてなかった。さっきやってみたように、落ち着いて」

 すると奥から声がしました。食堂の仲間たちでした。

「ちびーー!もういい加減にやめて戻ってこい!俺たちとダンスでもしよう!ちびに飛べるわけないじゃないか!」

 子供たちも「そうだそうだ」と賛同して騒ぎました。おばあさんも涙をこらえながら叫びました。

「ちび、そいつに騙されているんだよ!わたしのおいしい料理を食べに来ておくれ!」

 ハトはだんだんと自信をなくしはじめました。もしかしたら男に騙されているのかもしれないと思い始めました。しかし旅人は彼らの前に堂々と立って話し始めました。

「この子のお友達ですか?私は世界中を旅に出ていますが、ここは本当に素敵な町ですね。みなさんとても仲がいい!この子も皆さんが愛しているから、おしゃべりしたくなったのでしょう!」

 食堂の人たちは静かになりました。

「しかし皆さん。私は世界を回る中で、この子をたくさん見てきました。ここからずっと東に向かうと、小さな島があります。そこにはこの子、『ハト』という鳥がたくさん住んでいました。私は実際に見てきたから分かります。ハトはみんな自由に空を飛んでいたのです!」

 

f:id:mikor300koeru:20140505080503j:plain

町の人々は信じられないというように声を漏らしました。

「嘘つき野郎!ハトなんて聞いたことがないぞ!俺たちゃトリなんて見たことも聞いたこともない!」

 すると町中火山が噴火したように旅人を責め始めました。また、ハトを思って泣いている人もいました。旅人はすべてのことを見て聞いていましたが、はっきりとした口調で答えました。

「みなさんの反応は当然のことでしょう。私もこの町で生まれていたならば鳥を知らずに生きたと思います。けれども外に出てみてください。鳥は空を飛び、ハトという鳥もたくさん存在するのです」

 

 人々は旅人の毅然とした態度に困惑しはじめました。本当に鳥がいるのだろうか?ちびは鳥なのだろうか。疑問の声が湧き上がってきました。

 不安そうにするハトに旅人はやさしくほほえみかけました。

「君。ちびと呼ばれて親しまれているんだね。君は愛されている。でもね、君だって感じていたはずだ。人間とはどこか違うんじゃないかって」

 ハトはびくりとして、旅人を見ました。

 ハトはずっと自分自身のことで悩んでいたからです。

「ちび!なんでもいいから戻ってこい!嘘つきのいうことなんて聞くな!俺はあいつが嘘つきだということは分かる!」

 旅人はハトだけを見て言いました。

「私は君がハトだということを知っている。私は君が飛ぶのをこの目で見てきた。君がうれしく楽しく自由に空を飛べるようにと神様が願って、君をつくってくれたんだ。私が知っているから信じてやってみなさい。必ずできる!」