『ハトを知らない人々』

ハトを知らない人々と、ハトのちびと、旅人との出会いと旅立ちの物語です。

「旅人との出会い」

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 ハトが町を歩いていると、ひとりの人間に声をかけられました。

「ねえ君、この辺においしい

 料理屋はないかい?」

「はい、ありますよ。」とハトが見上げて答える

 と、頭に帽子をかぶった見たことのない男でした。

「わあ、やっぱり君、

 私の言葉が分かるんだね。」

 ハトは目をぱちくりさせながら首をかしげました。

「わたし、いろんな国へ出かけているんだけれどしゃべるハトは初めて見たよ

 ハトは自分のことを「ハト」と呼ぶので、

 また首をかしげてしまいました。

 「君、ずっとここに暮らしているのかい?」

 ハトは短く首を動かしました。

 ハトの頭の中には「ハト」という言葉でいっぱいでした。

「こんな小さな町にずっと住んでいるんだね。外は本当に広くて大きいんだよ。私の足だと隣の町まで十日かかってしまうけれども、君の翼なら三日で行けるだろうね」

 ハトは自分のことを指した言葉をうまく理解することができませんでした。けれどもハトは男の言葉をもっと聞いていたいなと思いました。長く悩んでいた答えがあるような気がしたからです。

「ねえ君、飛んでってしまったらどう?」

 ハトはもう耐えかねて「トンデッテとは何ですか」と尋ねました。すると旅人は不思議そうにハトを眺めました。「君には素敵な翼があるじゃないか」

「ツバサとは何ですか?」

 男は驚きを隠せない表情でハトを見ました。

「君はハトなんだ。だからあの大きな空を自由に飛び回ることができるんだよ」 

 その言葉を聞いてハトはびっくりして後ろにどしんとしりもちをつきました その時、遠くから食堂の子供たちが大きな声で叫んでいました。

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「ちびー!ちびーー!そいつだよ!そいつが例のおばけだよ!はやく逃げてー!」

 ハトは混乱する頭でなんとかしようと手をジタバタさせて旅人から離れようとしました。けれども足で走っても旅人の一足にはかないませんでした。

「ねえ君、飛ぶことを知らないんだね。わたしが教えてあげるから、わたしの話を聞いてくれないか?」

 ハトは走るのを止めて、じっと旅人の目だけを見ました。もうハトは何を信じていいのか分かりませんでした。けれども旅人の言葉を信じてみたい気がしました。旅人は真剣にハトを見つめ返したと思ったら、目じりにしわをよせて豪快ににこりと笑いました。

ハトは旅人の豪快な笑みに、思わず顔がゆるんでしまいました。

「ちびー!そいつはトカイから来た化け物だし、機関銃を持っているんだ!それに俺のおやじがトカイの人間は嘘つき者が多いって言ってたぞ!ちび、はやくこっちにおいでー!」

 

 声は町いっぱいに響き渡りましたが、ハトと旅人には聞こえていないようでした。