『ハトを知らない人々』

ハトを知らない人々と、ハトのちびと、旅人との出会いと旅立ちの物語です。

「大会議」

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ある日ひとりの旅人が町を訪れました。それで町中大騒ぎになりました。外部から人がやってくることなんて、千年に一度あるかないかの出来事だったからです。

 食堂の仲間たちも、テーブルを囲んでああだこうだと旅人について論じ合っていました。ハトはテーブルの上で様子をうかがっていました。それで尋ねました。

「外から人間が来ることがそんなに珍しいことですか?」

 食堂の息子が大きくうなずいて答えました。

「俺も生まれてはじめての出来事だ。母ちゃんだってはじめてだよな」

 

 食堂のおばさんもおおきくうなずきました。

「私もはじめてさ」

「もしかしたらトカイの人間かもしれない。ぼくは本の中でしか見たことないけど、いつも機関銃を持ち歩いてるって話を聞いたよ」

「それはおっかない。だが町いちばんの勉強家が言うならそうなんだろう」

 勉強家は眼鏡を少し持ち上げて恥ずかしそうに目をそらしました。すると今度はとなりの子供たちが答えました。

「ぼくたち見たよ!旅人の足がすうっと透けてるの!」

「おばけだったんだよ!」

 大人たちは大笑いました。

「おばけがこんな昼間っから現れるか」

「なんだかぶっそうな話ばっかりね」と町いちばんの美人がほほえみました。

「やっぱりトカイの人っていう話が一番有力なのかしら」

「トカイって何ですか?」ハトは思わず尋ねました。勉強家は得意そうに答えました。

「この町の何千倍も広くて大きな土地があって、縦にながーい建物がたくさんあるんだ」

「あと心が冷たいから肌も冷たいって話を聞いたぞ」

「そういう説もあります」

「じゃあやっぱりおばけじゃないか!」

子供たちがそう叫ぶと、大人たちはまた大笑いしました。「たしかにおばけみたいだ」

「いずれにしても恐ろしい人間が多いみたいだから、俺たちも気を付けたほうがいいかもしれない」

 

 その後も旅人の噂はあとが絶えませんでした。みんな好き勝手に話を膨らませて面白がっていましたが、話を聞いているとハトは目が回りそうになりました。そして、ハトはどの言葉を信じていいのかだんだん分からなくなりました。